異世界クロスオーバー 〜例え愛してはいけなかったとしても年下皇子と愛を紡いでいきたい〜

異世界クロスオーバー 〜例え愛してはいけなかったとしても年下皇子と愛を紡いでいきたい〜

last updateDernière mise à jour : 2025-07-31
Par:  架月ひなたComplété
Langue: Japanese
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バイトの連勤が終わった玲喜を家で待っていたのは、自らをゼリゼ・アルクローズ、マーレゼレゴス帝国の第三皇子だと名乗る男だった。 迷子のコスプレ男だと思った玲喜は、ゼリゼを交番に届ける事にするが、家に帰されてしまう。 不可思議な現象は「魔法だ」とゼリゼに言われ、目の前で言葉を変えられたり玄関の鍵を開けられると信じるしかなかった。 外国人だと思っていたセレナが異世界人の王族だと知り、平凡な庶民だと信じて疑わなかった玲喜自身もまた異世界の王族の血を引いていた。 異世界に転移する事によって、次々と明るみに出てくる祖母のセレナの事と玲喜自身の持って生まれた運命が絡む。

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Chapitre 1

日本での出会い(妙なコスプレ男)

——何で家の電気がついてるんだ?

出先から帰ってきた佐久間玲喜《さくまれき》は、扉を前にして立ち止まった。

アルバイトへ行く前にきちんと消したのを確認しているので間違いない。なのに扉に嵌め込まれている磨りガラス越しに灯りが見えた。

物取りの可能性を考えて、すぐに逃げ出せるように身構える。鍵を回してゆっくりと扉を開けたが、直後また閉めた。

——誰だ……⁉︎

慌てて表札を確認した後で握りしめたままの鍵に視線を落とす。やはり己の家だ。間違えていない。ならどうして知らない男が家の中にいるのだろう。

しかも目が痛くなるくらいに煌びやかだった。そんな外国人の知り合いなんて勿論居ない。

「は……? どういう事だ?」

物取りならすぐに警察へ通報するのだが、男はその類ではない気がした。

誰だと問う前に、先ず己の間違いを疑ったくらいには男は堂々とした佇まいで、さも当たり前だと言わんばかりに家の中に立っていたからだ。

思考を止めたくて玲喜はため息混じりに目頭を揉んだ。

——疲れているんだな、きっと……。

二週間休み無しでの勤務は辛かった。

さっきまで睡魔と戦っていたくらいには睡眠時間が足りていない。

昔から肉体的疲労や怪我の治りは異常なまでに早いのだが、睡眠だけはどうにもならない。

脳が疲れているせいでありもしない幻覚を見たのだと、もう一度家の中に入る為に玲喜は扉に手をかけた。

すると今度は内側から勢いよく扉が開く。ゴンッと派手な音を響かせて、扉の前にいた玲喜の全身を叩いた。

「いった……ッ‼︎」

やや俯き加減で立っていたのが災いした。

強《したた》かに額を打ちつけてしまい、思わず両手で額を抑えながら蹲る。

「誰だお前は?」

涙目で見上げると男に問われた。

明らかに不審者を見るような目付きをしているが、玲喜からすれば男の方こそ不審者だ。鍵を掛けて出かけた筈の我が家に知らない男がいるのだから。

「いや、お前が誰だよ? どうやって入った?」

「誰に向かって口を聞いている。俺はマーレゼレゴス帝国第三皇子ゼリゼ・アルクローズだ」

「だから何だよ? 皇子だか何だか知らないけど、人んちに無断で入って良いわけあるか。待て……皇子って言った?」

「ああ。そうだ」

真顔で言われた。

——頭大丈夫かな……この人。

男と正面から対峙する。

眉根は不機嫌そうに歪められているが、皇子だと言われれば確かに納得してしまうくらいの容姿はしていた。

薄い水色がかったシルバーの髪の毛が照明で輝き、中世の西洋を彷彿とさせる白を基調とした衣装には煌びやかな装飾品があしらわれていて、生地自体も上質そうだ。

玲喜の頭一つ半くらいは高い身長の為に、見上げなければならなくて若干首が痛い。

ただ瞳の色は、祖母であるセレナが生前に見せてくれたネックレスについていたアクアマリンのようで綺麗だと思った。

玲喜が男を注視する。

しかし流暢な日本語を喋る男からは胡散臭さしか伝わってこない。鍵を掛けていた筈の家の中にいた時点で怪しすぎた。

——多分ウィッグとカラコンだよな?

あくまで〝ごっこ〟姿勢を崩さないゼリゼを見て思わず半目になる。

遊びに付き合うノリの良さは今の玲喜にはない。三拍くらいの間が空いた。

「名を聞いているのだが?」

男から再度質問され、面倒くさそうに玲喜は口を開く。

「佐久間玲喜だ。どうやって中に入ったんだよ?」

皇子ごっこの事は今は置いておくとして、何故自身の家にいるのか玲喜は知りたかった。

場合によっては、近くの交番まで走らなければならない。

「それが俺にも分からん。自室に戻ったつもりだったのだが、いざ扉を開けてみれば光に包まれ、目が慣れてきた頃にはこの掘立て小屋の中に居た。何処だここは。誰かの嫌がらせか何かか?」

「悪かったな、掘立て小屋で! お前の存在自体がオレへの嫌がらせだ!」

目を窄めて逡巡した。

ゼリゼと名乗った男の国名に聞き覚えがあるような妙な既視感を覚えたからだ。

——マーレゼレゴス……帝国?

首を捻る。最近の記憶ではない。

もっともっと幼かった頃の記憶だった気がするが、寝不足で思考回路の回っていない今の頭では思い出せなかった。

それよりも早くこの男に何処かへ行って欲しいという感情の方が上回っている。

眠気がピークだ。シャワーを浴びて布団に転がって眠りたい。

「ここは日本という国だ。マーレゼレゴス帝国じゃない。その前に、マーレゼレゴス帝国なんて聞いた事もないぞ」

ここで聞き覚えがあると言ってしまえば、否応なく話が長引きそうだった。それに聞き覚えがあるような妙な引っ掛かりを覚えた程度だ。

断言できる確かな記憶ではないし、証拠も無ければ自信さえもない。変に期待を持たせてしまうのは可哀想だと思った。

——いいよな、これで?

玲喜の言葉を聞いて男の目が見開かれていく。信じられないものを見るように、瞬き一つしていなかった。

「そんな訳がないだろう! 我が帝国は世界屈指の海に浮かぶ帝国だぞ?」

「知らないものは知らない。ましてや王族なんてもっと無い」

ゼリゼは絶句していた。

——演技派だなこの人。

どこか上の空で思いつつ玲喜は家の戸締りをする。

このまま放り出すのは流石に可哀想に思えて、玲喜は男の服を引いた。

「何かよく分からないけれど、迷子なら交番くらいなら連れてってやるから、そっちで保護して貰ってくれないか? オレ連勤明けで疲れてんだよ。だから早く休みたいんだ」

流石に見ず知らずの男をこのまま家に泊めるのは怖い。玲喜は男の服を引いたまま、交番へ向けて歩きだす。男は道中ずっと無言だった。

「ほら、ここだよ。困った時はここを頼るといい」

交番につき、玲喜はゼリゼを中に案内する。

中にいた警官が玲喜に視線を向けて朗らかに微笑んだ。

「玲喜くんじゃないか。どうかしたんかい?」

「うん、ちょっとこの人迷子みたいで話聞いてあげてくれない? んじゃオレはもう行くから」

「外国人かな。日本語分かりますか? ちょっと待ってね。書くもの用意するから」

警官にゼリゼを紹介し、玲喜は出て行こうと扉に手を掛けた。

「ゼリゼ・アルクローズだ。佐久間玲喜という男の元で暮らすように言われて日本に来ているのだが、この通り追い出されてしまった。保護してくれ」

シレッとした表情で、まるで息を吐くように嘘を連ねるゼリゼを凝視する。

「は?」

何を言ってるんだ、と言わんばかりの目で見た玲喜を無視して、ゼリゼは更に続けた。

「少し言い合いになってな。そしたら出て行けと言われた。お陰で住む場所も無ければ文無しだ。非常に困っている。何とかして貰えると有り難い」

警官は深い溜め息を吐き出し、こちらに視線を向ける。

「駄目でしょ玲喜くん。喧嘩したからって外国の方を追い出しちゃ。可哀想でしょう。はい、早く帰って仲直りしてね」

ゼリゼと共に背中を押されて交番の外に追いやられた。ちゃんと説明しようとしたが、警官はもう既に聞く耳持たずである。

「え、あの……違うんだって……」

「はいはい。じゃあまた困った事があったら話くらいは聞くから。仲良くね」

——今困ってるんだけどっ⁉︎

来て数分も経たない内にゼリゼと交番の外に出されてしまう。

ゼリゼを泊めざるを得なくなってしまい溜め息をつく。田舎だと交番を含めて顔馴染みなのが仇となった。

窓ガラスの向こう側で警官がバイバイと手を振っている。

初めに不法侵入者だと告げておけば良かったと玲喜は肩を落とした。

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仕切り直してまた追い出す
「何なんだよ、お前……。せっかく連れて来てやったのに。意味が分からない」 「俺の意見も聞かずに勝手に交番とやらに連れてきたお前が悪いと思うぞ? ちょっとした意趣返しだ」 フンと鼻を鳴らして、ゼリゼは先に歩きだす。 ——客間にでも寝て貰おうかな。 ゼリゼの寝る場所を考えながら歩いている内に家に辿り着く。鍵を開けて入ると、躊躇なく土足で上がろうとしたゼリゼを慌てて止めた。 「家の中では靴は脱げよ!」 その言葉にゼリゼが目を見開く。 「ここが家……、だとっ⁉︎」 信じられない。掘立て小屋じゃないのか、とゼリゼの目が物語っていた。 「い・え・だ! そんな事言うんなら二度と入れてやらないからな」 有無を言わさずゼリゼからブーツを脱がせると、家の中の電気を点ける為に手を伸ばしてある事に気がつく。 ——あれ? さっき電気ついてたよな? 消した覚えがなくて首を傾げる。 今日は訳の分からない事ばかりが続いていて、玲喜の疲れ果てている脳には優しくなかった。 とりあえず座卓の前に座布団を敷いて、座るように合図する。 茶を淹れる為に台所に向かって湯を沸かす。尻目にゼリゼを見やると、嫌そうな表情で座布団の上に胡座をかいていた。 手早く茶を入れ、ゼリゼの前に出す。それからテーブルを挟んだ反対側に玲喜は腰を下ろした。 「それで、その皇子様は何でオレの家に居るんだ? て、何だよその設定……本当はコスプレか何かじゃないのか?」 玲喜から質問を受けて、ゼリゼが玲喜に視線を向ける。 「コスプレとは何だ?」 「何かのキャラクターを真似て、それっぽく見せる為に扮装《ふんそう》する事だよ」 持ち上げた湯呑みに口をつけてから言うと、ゼリゼはムッとした表情を作った。 もし仮にマーレゼレゴス帝国という国があったとしてゼリゼが本物の皇子だとしても、日本語が通じるのはおかしい。玲喜の胸中には不信感しかなかった。 「第一、見るからに外国人なのに、そんな流暢な日本語を喋っている時点でおかしいと思うのが普通だろ。お前の存在自体が胡散臭い」 「日本語? ああ。言葉は単に俺が魔法で分かるようにしているだけだ。お互い話しているのは其々別の言語だぞ。試しに解いてやろうか」 「へ?」 驚いた顔をした玲喜の目の前で、ゼリゼが何かの言葉を
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魔法、だ
 次の日、息苦しさで目を覚ました玲喜は視線を這わせた。 端正な顔立ちをした男が、横向きに寝ている玲喜を抱きしめて寝ている。重いと思ったのは追い出した筈のゼリゼの腕だった。 銀色の長い睫毛に覆われている綺麗な二重瞼が微かに揺れて、ゆっくりと上下して玲喜を捉える。「何でまたオレん家にいるんだよ」「寝れそうな場所がここしかなかったからだ」「違う! どうやって家の中に入った? 鍵掛けてあっただろ……、お前まさか!」 自分で言っておきながら玲喜は息を呑んだ。 扉ごと壊して入ってきたのかと思い、ゼリゼの腕の中から抜け出すなり玲喜は玄関へ急いだが、鍵は掛かったままで壊れてもいなかった。安堵の吐息をつく。「鍵くらい魔法でどうにでもなる」 大きく伸びをしたゼリゼが玲喜のところまで歩み寄る。「魔法⁉︎」「見てろ」 百聞よりも一見に如かず。 玲喜の目の前で、ゼリゼが右手の指先を動かす。すると、かかっていた鍵が外れる音がして触れてもいない扉が勝手に開いた。「妨害魔法も張られていない扉等開けて下さいと言っているようなものだ」 どうだ見たか? とドヤ顔をしてくるゼリゼを見ていると頭に血が上ってくるのが分かった。 最後の一言がなければ「凄いな」くらいは言っていたかもしれない。「堂々と不法侵入しといて威張るな!」 だがこれで昨夜に電気が点いてたり消えてたりしていた謎は解けた。全てはゼリゼの魔法だったのだ。 ——何だよそれ。すげえ便利。カッコいい! 内心ではそんな事を思っていたが、悔しかったので口にはしなかった。「おい、食事はまだか? いい加減腹がへった。あとシャワーも浴びたい」 至極当然と言わんばかりにゼリゼがテーブルの前についている。 自分でやれよ、と言いたかったが一人分も二人分も大差ない。 玲喜は簡単に目玉焼きとベーコンを焼いて味噌汁とご飯をよそうとゼリゼの前に出した。 いただきますと手を合わせて箸を手にしたが、ゼリゼは不思議そうに箸を眺めている。「もしかして……箸を見たのは初めてなのか?」「これは、箸というのか」 角度を変えてじっくりと観察している所は何だか少し可愛く見えて、玲喜は表情を綻ばせる。 興味深そうにしているゼリゼに、取り出してきたナイフとフォークとスプーンを用意した。「これなら使えるか?」「むっ、俺もこの箸とやらを使
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アレキサンドライト
「ゼリゼは、日本に来る前に何か変わった事をしたとか無かったのか? 後二カ月もしない内に、オレはここを出て行かなきゃいけないから、それまでに戻る方法を探さないと戻れなくなるぞ」 「二カ月?」 「ああ。この土地の買い手が見つかったらしい。今オレは立ち退きを要求されているんだ」 「何だそれは。俺が話をつけにいってやろうか?」  ゼリゼの言葉に思わず笑みが溢れた。  第一印象は最悪だったが、意外と世話焼きの良い奴なのかも知れない。新しい発見だった。 「いや、いいよ。どっちみちオレにはこの土地と家を守っていけるだけの経済力が無いんだ。だからこれで良かったんだと思う。喜一郎にも負担になったら直ぐに手放せと言われていた。だからオレの事はいいよ。ゼリゼが元の国に早く戻れるように手掛かりを見つけよう。ここにくる前に、何か変わった様子はなかったのか?」 「特には……。ただ従者と異世界の話はしていたな。ソイツも少し前に異世界へと飛ばされたと言っていた」  ゼリゼの言葉に玲喜の動きが止まった。 「ゼリゼの国では頻繁にあるのか?」 「どうだろうな。俺はソイツの話しか聞いた事がない。こんな事になるのなら戻り方もきちんと聞いておけば良かった。御伽話感覚で聞いていたから、まともに取り合ってもいなかった」  背中を洗い終えてボディウォッシュタオルをゼリゼに手渡す。 「前は自分で洗ってくれ」  玲喜の初恋相手は同性だった。  五歳の頃、ゼリゼと同じように突然この家にやって来た男だ。  ——やっぱり何となくだけどゼリゼと似ているんだよな。  顔立ちや髪の色合いは全然違うけれど、そこにいるだけで圧倒的な存在感を醸し出す所や、食事中の所作、立ち姿などが特に似ている。朧げな記憶を辿っていると懐かしくなってきて、それと同時にこの場に居た堪れなくなってきた。  次からはゼリゼ一人で風呂に入れるように、手早くシャンプーやトリートメント、ボディソープの説明を終わらせるなり風呂場を出た。  玲喜は己のセクシャリティーは同性だと思っている。  初恋以来同性にも異性にも恋愛感情を抱いた事はないが、この状況下で生理的に体が反応しない
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祖母セレナから繋がっていく
「お前、何故これが王族の証だと分かった?」「子どもの頃セレナが王族の証がオレたちの目の色だって教えてくれた…………あー‼︎ 思い出した! その国名何処かで聞いた事があると思ったら、子どもの頃セレナが作ってくれた絵本に出てきたんだよ! アレキサンドライトの事もその時教えて貰った!」「絵本? それはまだあるか?」 二人でセレナと喜一郎が使っていた部屋へと向かい、押し入れを開ける。 整理整頓された箱が並んでいて、一つずつ取り出して中身を確認していく。その内の一つを開けると煌びやかな白いドレスが出てきた。「これはマーレゼレゴス帝国のものだ。しかも王族用のドレスだぞ」「え、嘘……」 何故セレナがマーレゼレゴス帝国の服を持っているのだろうか。それも王族の物だ。セレナは銀髪で、玲喜と同じ不思議な色合いの瞳をしていた。 名前と見た目で玲喜は外国人だと思っていたのだが、異世界人の可能性は全く考えていなかった。「セレナと言っていたな? その者はどこに居る?」「セレナは十年以上も前に病気で亡くなったよ」「そうか……」 落胆するゼリゼを見て、玲喜も残念な気持ちになってくる。 セレナが生きていたら、もしかしたらゼリゼが元の世界に戻る糸口が見つかったかも知れないからだ。 その他の荷物を開けていくと目当ての絵本が出てきた。「ゼリゼ、これだ! あったぞ!」 もう古ぼけてすぐに破れてしまいそうな代物だけど、虫には喰われてはいなかった。 その絵本を開いて、またしてもゼリゼの目が驚きに見開かれていく。「この絵本の挿し絵は、どれもマーレゼレゴス帝国の景色そのものだ」 手書きで書かれたイラストを何枚も捲っていって、二人で文字も読んだ。 小さな頃は良く分からなかったが、その絵本はファンタジー世界を主軸にした、双子の少年たちが主人公の冒険譚だった。「セレナはマーレゼレゴス帝国の人物だった可能性が高い。それも王族だ」 ゼリゼの言葉にドキリ
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オレ庶民でいいんだけど……
「ゼリゼとオレがハトコ⁉︎」 「そうだ」 さっきから驚いてばかりだ。 ゼリゼの為に手掛かりを探るつもりでいたのに、思いもしていなかった方向へと話が流れていて、さっきから心音が激しく音を刻んでいた。 ハトコとなると玲喜自身も王族の血をひいている事になるからだ。 ずっと庶民だと信じて疑わなかった自分が、突然別の生き物になってしまったような気がして、玲喜は動揺していた。 「え、ええ⁉︎ いや、オレ庶民だし」 「そういう生き方しかしていなかっただけだ。お前はマーレゼレゴス帝国の正統な王位継承者だ」 「オレ、庶民でいいんだけど……」 「欲のない男だな」 二人で手分けして、どんどんセレナの荷物を開けていく。 しかし手掛かりになりそうなものはそれ以上何も出て来なくて、そのまま荷物をしまうはめになった。 ——あれ? アクアマリンの指輪もあった筈なのに無くなってる。何でだろう。 玲喜は不思議に思いながらも、その他の装飾品全てを布製の小袋に入れてゼリゼに手渡す。 「もしかしたら、ゼリゼが帰る糸口になるかも知れないから肌身離さず持っていた方がいいと思う。昔、セレナが言ってたんだ。このアクアマリンのネックレスが導いてくれるって」 「しかしこれはお前にとって形見だろう。良かったのか?」 ゼリゼからの問いに、玲喜は迷いもせずに頷いてみせた。 「いいよ。オレには過ぎた宝だ。それに元にあった場所へ戻してしまった方がいい気がするんだ。この家も無くなるから、新たな転移者が出た時戻れなくなってしまうのは可哀想だし」 本当にセレナがマーレゼレゴス帝国の王族であるならば、ゼリゼが元の世界に戻った時にあるべき場所へ返せるのではないかと思った。 その前にゼリゼに教えておくべき事項が幾つかある。手掛かり探しはそれからだ。 あとは暇つぶし方法を教えておこうと玲喜は心の中で決心する。 「そうだ、ゼリゼ。家ばかりに居ても退屈だろ? オレは明後日からはまたバイトでほぼ一日中家にいないんだ。ずっと一緒に居てやれないから、気晴らしに何処か出掛けてみるといいよ。意図しない所に手掛かりもあるかもしれないしさ。電車とか乗ってみるか?」 「電車?」 「そう、電車。時間潰しにもなると思う」 早速出掛ける事にして、ゼリゼを連れて駅に向かった。
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すれ違いの始まり
「ムカつく」 正直な気持ちを述べると、肩を揺らしてゼリゼが笑った。 家族とは何処か違う。初めて気兼ねなく話せる友人が出来たような気分になって何だか居心地いい。 冷蔵庫を開けて食べ物を物色する。簡単なツマミを何品か作ってゼリゼの前に出した。 まだぎこちなく箸を使っているのが分かり、玲喜はバレないようにゼリゼに背を向けて笑う。「おい……。笑っているのは分かっているぞ」「ごめん、態度は偉そうなのに箸使いは拙いからギャップが可愛いなと思って。馬鹿にしてるわけじゃ無いんだ……っ」「ったく。この俺に対してそんな態度を取る輩などお前とラルくらいだぞ」 不機嫌そうに眉根を寄せたゼリゼを見て、玲喜はこれ以上開かないくらいに目を見開いた。「え、ラ……ル?」「ああ。前に話しただろう? 異世界転移した事がある従者がいると。その男がラルだ。どうかしたのか玲喜?」「いや、何でもない。その人……何歳なんだ?」 動揺をなるべく悟られないように気をつけながら、玲喜は尋ねた。「今年三十歳になると言っていた」「そっか」 安心した。 年齢を聞く限りだと玲喜が知っているラルとは別人だ。何せラルと会ったのは、十六年前だからだ。 出会った当時にはもう二十九歳だったので、生存していたとしても四十五歳を超えている。同一人物である筈がない。 冷蔵庫からアルコール飲料をもう一本取り出してプルタブを押し上げる。「まさかお前、俺を差し置いてまた一人だけ飲む気か?」「だってゼリゼは二十歳になってないだろ」 今度は玲喜が鼻を鳴らして笑う。それから晩酌を始めた。「有り得ない」 ゼリゼが呟いた。そしてそれから三十分後だった。「……有り得ない」 ゼリゼは額に手を当ててまた呟いた。 自分から晩酌を始めたというのに、二本目を飲み切らない内にダイニングテーブルの上へと上体を倒したまま、玲喜が動かなくなったからだ。 玲喜は飲むのは好きだが、アルコールにあまり強くなかった。「玲喜、寝るなら布団で寝ろ」 ゼリゼが玲喜の肩を揺すって起こす。「んー
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虚しい関係
朝起きると、玲喜は自身を抱きしめて寝ているゼリゼを見て一気に頬を紅潮させた。 互いに裸だったのも起因の一つだが鮮明に残っている情事の記憶が主な原因だ。 恥ずかしすぎて叫びたい。こんな状況下にいるのは、間違いなく自身が引き起こしたのだから玲喜は余計に恥ずかしかった。 それと同時に青ざめる。言うつもりはなかったというのに、自ら誘って己の性癖をバラしてしまったのだ。 それを受け入れたゼリゼももしかしたら同じ性癖なのかもと考えたが、己に誘われてつられてしまっただけのような気がした。 「ほう。てっきり覚えていないとでもほざくかと思っていたが、その様子だと覚えているな?」 寝ていると思っていたゼリゼがいつの間にか起きていて、玲喜は挙動不審ぎみに視線を彷徨わせる。 「ごめん。本当に……ごめん。悪かったゼリゼ……お前はオレに釣られて過ちをおかしただけだ。忘れてくれ」 玲喜から精一杯の謝罪と逃げ道を示したつもりだったが、その言葉を聞いたゼリゼの眉が不機嫌そうに顰められ、そのまま組み敷かれた。 「昨夜の事を無かった事になどさせない」 「ゼリゼ?」 口付けられて舌を絡ませられる。水音を響かせて口内を蹂躙された。 「ぁ……あ、んぅ」 胸元の突起を指の腹で擦られ、玲喜の体が戦慄く。 「ゼリゼ、何で……。ちょっと、待て……」 「酔っていて良く覚えていないだろう? じっくり思い出させてやる。まだ中に出したモノも残っているだろう?」 剣呑な空気を醸し出しているゼリゼを止めようと、玲喜は腕を突っ張って肩を押したが、その腕は頭上で一纏めにして片腕で押さえ込まれる。 「ラルも昨夜みたいに誘ったのか?」 直で名前を出されて玲喜は動揺した。 普段より落とされた声音が、ゼリゼの機嫌の悪さを物語っている。 「な、んで……」 「お前、ラル・マニアンスの事を知っていたんだろ
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優しいのか優しくないのか分からない
 2 事態が大きく変化したのは、ゼリゼとの関係性が変わってしまってから一週間後のことだった。 朝になるまで散々ゼリゼに抱かれ続けていた体は朝から怠く、起きるのも億劫で、足がもつれて座り込む。 昨日は執拗だった。 初めて腹の中でイク事を覚えさせられ、何度も繰り返して中だけでイかされた。 内側に散々出されたものが太ももを伝ってきて慌ててティッシュに手を伸ばして拭き取る。そんな事をしている自分がとても惨めだった。 室内を見渡す。散歩に出かけているのかゼリゼの姿は見あたらない。 ホッとした。今はゼリゼの顔を見たくない。 よろけながらも服をかき集めて着ると、料理の匂いが鼻腔をくすぐった。 ダイニングに歩を進ませる。 テーブルの上には、玲喜がいつも作る簡単な朝食が置かれていた。所々が焦げていて、玲喜は思わず苦笑する。 今日みたいに体に負担が出るくらい抱かれた次の日は、ゼリゼが食事を作ってくれるようになっていた。 体を拭いてくれたりと情事後の後始末もしてくれるのも、有り難いではある。内部の精液を掻き出された事は一度もないが。 優しいのか優しくないのか良く分からない。 それでも何もしてくれないよりかは随分と楽だった。 なのに心が苦しくなるのはどうしてだろうか。居なくてホッとしたのに、側にゼリゼの気配がないのが寂しい。 椅子に腰掛け、味噌汁に口をつける。「……塩っぱい」 あのゼリゼが作ったのかと思うと可笑しくて、口元に笑みを浮かべる。味付けや焼き加減はどうあれ全て食べ切った。「なあ……、オレはどうすれば良かった?」 ラルの事を初めにちゃんと話せていれば少し前の関係のままでいられたのだろうか。 玲喜の小さな問いかけが空気にとけた。 正直、他人との関わり方は知らない。今までは交流がなくても困らなかったし、一人でも構わなかった。 セレナと喜一郎が居なくなった時とはまた違った寂しさを胸の内に抱えこむ。「前みたいに……戻りたい」 願ってしまうのを止められない。 もう無理だと分かっていても、一緒にいて欲しくて堪らない。
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絶望の末にマーレゼレゴス帝国へと転移する
 シャワーついでに浴衣は洗いに出したのか、ゼリゼは元々着ていた服を着ていた。「ゼリゼ……これラルに返しておいてくれないか? 昔怪我をした時に借りっぱなしだったんだ。後、ごめん。お前をマーレゼレゴス帝国に帰す手伝いももう出来ない。すぐに此処を出て行かなきゃならなくなった。週末に……この家が無くなるんだ」 差し出したハンカチを通り越して腕を引かれた。 畳にあぐらをかいて座ったままのゼリゼの膝の上に、対面する形で乗せられる。「ゼリゼ……」 また泣けてきて涙が頬を伝った。 突き放すなら優しくして欲しくない。本当は嫌われていないんじゃないかと勘違いしてしまう。 腕を突っ張って体を離そうとしたがビクともしなくて、何回か試したのちに玲喜は諦めてゼリゼの肩に額を乗せた。「なんでオレは……誰にも必要とされないんかな。そんなに邪魔? オレは居ない方がいい? 行く場所さえ無いんだ。もう……喜一郎とセレナの所へ……っ行きたい」 嗚咽に震えた声は、語尾が小さくなり消える。 何処へ行こうと同じなのかもしれないと考えると、行動に移す事さえ億劫で、気力さえ奪われる。 それなら必要としてくれた人たちの元へ行きたかった。 此処にはもう、自分の居場所はない。「邪魔じゃない。俺にはお前が必要だ」 あやすように、後頭部に回ってきたゼリゼの手に頭を撫でられた。「オレの事、嫌いなくせに……嘘つき。でも…………ありがとう」 必要だと言ってくれた言葉は嬉しかった。 ゼリゼの単なる気まぐれで発した言葉でも、どこか救われた気持ちになる。 ゼリゼの事は嫌いじゃなかった。寧ろ逆だ。 確かに第一印象は最悪だったけれど、共に生活をしていくにつれて色々な面も見れたし、年齢が近いのもあって楽しさの方が上回った。 久しぶりに素面で笑えた。 初めて気の置けない友人と同居しているみたいな気になっていて、嬉しかった。 ゼリゼが居るのが当たり前になる頃には、側に気配を感じるだけで幸せな気持ちにもなれた。 この一週間は、ただ体を重ねるだけの関係になってしまったが、それでもゼリゼは手酷く扱ったりはしなかった。
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